【テーマ・日露戦争史 03】
クリック 20世紀
●対日戦争シミュレーション
ここで、ロシア側の立場に立って、いかにして戦えば日本との戦争に最も賢明に勝利を得られるか簡単にシミュレーションしてみよう。
日本の最大の弱点は何かと考えてみれば、答えは容易に導き出せるだろう。それは補給路である。 日本は島国であり、大陸で軍事行動を行おうという場合、必然的に公海上を補給路としなければならない。 ここを分断されれば、大陸上に日本の軍事力は成り立たない。
戦場は満州が予想される。極東ロシア軍には、旅順とウラジオストックに軍港がある。 ロシアが主力艦隊を旅順に置けば、日本海軍は宇品(佐世保)−対馬海峡−朝鮮半島という補給路を警戒しつつ、 敵主力艦隊と対峙することができる。 一方、ロシアが主力をウラジオストックに置けば、日本は海軍力を広く分散させなければならない。 旅順に、干潮時でも出入港できる足の速い小型艦艇を配置すれば、補給路を守るため、日本海軍はこれも捨て置くことはできないだろう。
このようにして対日戦争に備えられた場合、日本は容易に開戦に踏み切れなかっただろうし、もっと困難な戦いを強いられただろう。 だが、実際には極東ロシア海軍の主力は旅順に配備されており、山本海相ら日本海軍首脳を喜ばせている。
旅順要塞もいまだ未完成であり、1902年に完成したシベリア鉄道も、その輸送力は決して十分なものではなかった。 時を稼ぐことのみがロシアの軍事戦略であった。
●艦隊出航
佐世保、2月6日午前1時。旗艦「三笠」艦橋に「各隊指揮官、艦長、旗艦ニ集マレ」の発光信号がまたたき、 やがて「三笠」の将官室にそれらの人々が集まった。「大命が降りました」と東郷司令長官の第一声。 静けさの中、勅語などを次々朗読してゆく。最後に作戦命令の下達。東郷の落ち着いた口調が最後に一言したあと、 シャンパンで乾杯。「万歳」の声があがり、士気はいっきに高まった。
午前9時。「三笠」のマストに「予定ノ序列ニシタガッテ出港セヨ」の信号旗。
港の岸壁には集まった市民。港内に軍楽隊を乗せた小船、見送りの渡し舟、漁船。
先頭は出羽重遠少将の旗艦「千歳」。「千歳」が動き出すと岸に海に「万歳」の叫び。軍楽隊の演奏が始まった。
1904/02/06   連合艦隊、佐世保出航
第三艦隊は韓国西岸海域の警戒にあたる。第一、第二艦隊から成る連合艦隊の主力は旅順へ。一部は瓜生外吉少将に率いられ、 陸軍輸送船を護送しつつ韓国・仁川へ向かう。
最後の瓜生艦隊が佐世保を出港したのは午後2時だった。
●国交断絶
2月6日午後4時。栗野駐露公使はロシア外務省に赴き、外相に国交断絶の公文書を手渡した。
同日同時刻。小村外相はローゼン公使を外務省に招いて同じことを伝えた。 ローゼンは、国交断絶とは何を意味するのか、戦争かと尋ね、小村は微笑をたたえながら、否、まだ戦争ではないと答えた。
1904/02/06   栗野駐露公使、ロシアに国交断絶を通告
ロシアは日本を小国とあなどりその軍事力を過小に評価、日本から戦争を仕掛けてくることはありえないとタカをくくっていた。
そのようにタカをくくった当然の結果として、戦争の準備は進んでいなかった。 戦備が整わぬゆえに、そのようにタカをくくったという一面もあったかもしれない。 それだけに、日本側からの国交断絶の通告がロシア首脳をあわてさせただろうことは想像に難くない。
この時点では、まだ戦争ではないが、2日後、戦端が開かれることになる。
●韓国・仁川
瓜生艦隊と陸軍輸送船が向かった先、仁川は朝鮮半島の西岸、佐世保と旅順のほぼ中間あたりに位置する。 京城(ソウル)の外港、つまり東京に対する横浜に相当する港湾都市である。
このとき仁川には、京城の大使館を守るためという名目で、各国の軍艦が停泊していた。 ロシアは巡洋艦「ワリャーグ」と砲艦「コレーツ」を停泊させていた。 日本はあえて三等巡洋艦「千代田」を投錨させ、開戦の意図をカモフラージュしていた。 「ワリャーグ」と「コレーツ」にはさまれて停泊する「千代田」艦長村上格一大佐の開戦を待つ心境はいかばかり悲壮なものだっただろう。
1904/02/08   陸軍先遣隊、仁川上陸開始
当時韓国は独立国、仁川は独立国の首都外港である。瓜生艦隊に守られて洋上を進む輸送船は、 そこに詰め込んだ先遣部隊をここに強行上陸させようとしていた。
満州でロシアと戦うために不可欠な措置であるというのは日本側の論理であり、 韓国からすれば、それは独立国の主権を犯す行為にほかならなかった。 そんなことを許せばそのあとどんなことになるか。 それはその後の歴史がはっきり教えていてくれる。
ともあれ瓜生艦隊と陸軍先遣隊を乗せた輸送船は仁川をめざして進んでいる。 仁川港には「ワリャーグ」と「コレーツ」と「千代田」が、そのほかの国の軍艦とともに停泊している。
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